札幌馬主協会

コラム

老いも若きも、ともに楽しむ競馬の風景

 今年も「札幌の夏」が始まった。北海道でも例年以上に暑い夏をすでに迎え、いつも以上に待ち遠しく思われた札幌競馬の開幕日には、あいにくの雨模様にもかかわらず前年を超える1万5千人近くの来場者を集め、大いに賑わった。

 思えば、世がコロナ禍に見舞われてから5年。それを境に、競馬場の風景も様々に変化した。無観客という最も厳しい状況に陥ったところから、「新しい日常」を模索する中で様々な工夫も行われ、それ以前とは大きく異なる地平も見えてきたように思う。

 目で見て容易にわかるのは、競馬場を訪れる客層だ。これほどまでに、毎週末の競馬場が若い人たちで溢れる様を、昭和平成の時代に誰が想像しただろう。業界の努力に加えて、世の中のトレンドの変化もあり、競馬場の客層は若返り、つれて場内の雰囲気も大きく変化した。若い競馬ファンの増加を切望していた業界にとっては、売り上げだけでなく集客の面でもコロナ禍が前向きな契機になったようだ。

札幌競馬場ではシニアシートの申込はUMAポートで行う

 一方、場内で目立たなくなった年配者たちも、ただ黙って消え去ってはいない。先に閉幕した函館競馬では、連日朝一番の開門直後には、驚くことに年配者による「開門ダッシュ」が見られた。先を競って求めるのは、65歳以上対象に用意された「シニアシート」だ。先着順に割り当てを受けられることから、それを求める年配客が開門時から来場。席数は限られており、かなり早い時刻に受け付け終了となるため、席が得られず途方に暮れる人の姿も見られた。シニアシートの運用は各競馬場により異なるが、札幌・函館ではキャッシュレス投票用カード「UMACA」保有者限定。席の受け付けは場内各所にある「UMAポート」という端末機で自ら行う必要がある。正直、デジタル機器に慣れない一部の年配者には高いハードルなのだが、それでも係員の案内に食らいつきながら何とか端末を操作し、席を獲得していく人もいて、その姿には頭が下がる。そういう人は恐らく、UMACAを使っての投票にも挑戦するだろう。誰しもが技術革新から逃れることが出来ない世の中、幅広い顧客がレベルの高いサービスを享受出来るように、時には多少強引であっても新しい技術に引き入れ、そして教導していくことも必要なことなのだろう。そういえば、朝一番でUMACA入金機に長い行列が出来ることも、最近ではよく目にするように思う。

次代を担うかもしれないスマッピー専用窓口

 UMACAの話が出たついでに、同様に馬券に関わる技術革新である「スマッピー投票」についても触れておきたい。マークカード・筆記用具の無駄遣いを防ぐ資源保護や、場内美化の観点から、マークカードに代わって各自の持つスマートフォンに買い目を入力し、画面に表示させるQRコードを使って馬券を購入する仕組みがこのスマッピー投票。現場の実情を見ると、「馬券はマークカードで買うもの」という意識が浸透しているからか、まだまだマークカードの設置場所には人だかりが出来、場所によっては取り落とされたカードが散乱している様も見られる。デジタル機器の扱いには慣れているはずの若者の多くが未だマークカードを使っているのを目にすると、1990年からもう35年も続いてきた「マークカードで馬券を買う」という競馬場の風景を変えるのには、意外と手間と時間がかかるのだなと感じている。

 私が講師を担当している初心者向けの競馬教室・ビギナーズセミナーでは、若い方には「回転寿司屋で伝票を書いて注文する店などもうない」、年配の方には「自分は老眼でマークカードは見えず、よく買い間違う」などと話して共感を勝ち取りつつ、利用を慫慂している。半信半疑でも使い始めた人は、100%その後もスマッピーを利用する。それほどまでに使い勝手が良く、書き間違いのリスクもなく、更に資源保護に貢献しているという心理的な安心感のようなものもあるのだろう。

 すでに、JRAでは全ての券売機でスマッピーが利用できるようになっており、また札幌競馬場では、ファンファーレホールから少し奥に行ったところには「スマッピー専用窓口」、つまりマークカードが使えずスマッピーのQRコードでのみ馬券が買える券売機が何台か設定されている。この専用窓口は、ピーク時でもすいていて馬券購入もスムーズ。今年の夏は、このスマッピー線用窓口にも多くの人々が並ぶよう、重ねて慫慂して行ければと思っている。

 最後に、コロナ禍以降最も変化した競馬場の風景を挙げておきたい。それは、レース前のファンファーレのあと場内を包む拍手。コロナ禍の最中、声を出して物事に応援や感謝の気持ちを表すことが出来なかったとき、それに代わって行われるようになった新たな習慣は、ポストコロナの競馬シーンにおいては、競技や(競走馬も含めた)競技者に対する敬意や期待感の表れとして定着した。重賞レースのみならず、朝の1レースから夕方の最終レースまで、全てのレースでファンファーレのあとに鳴り響く拍手の音が醸し出す雰囲気は素晴らしく、老いも若きも問わず、全ての観衆が一体となり楽しむ競馬を象徴する風景を演出している。

 このあと、札幌競馬終盤、そしてそのあと競馬が最も盛り上がる秋の競馬シーンにおいて、来場客からの喝采にふさわしいレースが展開されることを、願ってやまない。

発走前の拍手は競馬場の新しい風景となった