札幌馬主協会

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「海外のホースマンが見た日本」

 国際機関のIFHAが発表した、2025年のベスト・ホースレース・ランキングで、東京競馬場のジャパンCが、アスコット競馬場のチャンピオンSと横並びで、世界のG1競走で最も高いレースレートを獲得した。ジャパンCが世界のベストレースと認定されたのは、23年に次いで2度目のことである。主催者のJRAをはじめ、陰になり日向になりジャパンCをここまで育て上げてきた皆様におかれては、感慨ひとしおのことと思う。
 筆者のきわめて個人的な見解として、欧州に様々ある路線の中で最もコンペティティヴな10ハロン路線における、シーズンのクライマックスとなっているチャンピオンSは崇高な存在であり、ニューマーケットを舞台としていた時代から、その模様は正座をする思いで見つめてきた(チャンピオンSの舞台には、ニューマーケットこそが相応しいと、今でも思っている)。そのチャンピオンSと並び称されるだけでも、恐れ多いほどに誉れ高きことだが、レーティングという数的根拠によらずとも、昨今のジャパンCが世界において極めて高く評価されていることを、身に染みて知る機会が少なからずある。
 25年のジャパンCを制したのは、フランス調教馬のカランダガンだった。同馬を管理するフランソワ・アンリ・グラファール調教師が、12月の香港国際競走に出向いた時のことだ。欧州を代表する名手ライアン・ムーア騎手が、グラファール師に声を掛けた。「世界で今、勝つのがもっとも難しいレースは、ケンタッキーダービーとジャパンCです。そこを勝ったのだから、素晴らしい。おめでとうございます」と。20年以上にわたって欧州競馬シーンの最前線に立つ名手が、ジャパンCを「世界最難関」と位置付けているのだ。日本での騎乗経験も豊富な彼は、日本調教馬の質の高さを実感し、そんな彼らと日本調教馬のホームである東京で戦うジャパンCの厳しさ、難しさを、肌で感じているのだろう。ジャパンCに対する最大限の賛辞だと思う。
その25年のジャパンCを、筆者はニューマーケットのホテルの自室でテレビ観戦した。英国時間の午前6時40分に発走したレースは、ニック・ラックがホストを務めるレーシングUKで生中継され、ゲスト解説として、日本でも短期免許で騎乗経験のある元騎手で、現在は競馬記者として活躍するフランシス・ベリーがスタジオに呼ばれていた。
 ニューマーケットに滞在していたのは、折りから開催されていたタタソ-ルズ・ディセンバーセールに臨場するためだったが、セールが始まる時間になって会場に出向くと、あちこちで、見たばかりのジャパンC談義が展開されていた。大接戦を演じたカランダガンとマスカレードボールの強さを讃える声が、そこかしこから聞こえていたのだ。
 年によっては東京競馬場で生観戦することもあるが、近年は、ジャパンC当日はニューマーケットにいることの方が多い。21年もそうだった。レースが終わり、せり会場に行くと、英国でチャンピオントレーナーの座に就くこと6回という大御所ジョン・ゴスデン師が、スタッフに語り掛ける声が聞こえてきた。
「私は今朝、素晴らしい馬を目撃した」と。「コントレイルだよ。心ひかれるレースだったし、あの勝ち馬には感銘を受けた」と、ゴスデン師は続けた。日本人である筆者に向けて発した言葉ではない。心やすい間柄にある厩舎スタッフにかけた言葉だけに、ジャパンCとコントレイルに対する、伯楽の正味な心情が溢れていたと思う。ジャパンCに管理馬を送り込んだことは一度もないゴスデン師だが、日本馬と日本の競馬へのリスペクトを感じた瞬間だった。
 カランダガンが勝つまで、ジャパンCを勝った最後の外国馬と言われ続けていたアルカセットを管理したルーカ・クマーニ氏は、18年に調教師を引退。以降は、ニューマーケット近郊に所有するフィットックス・スタッドで、生産に従事している。25年のタタソールズ・オクトーバーセールでも、上場した父フランケル・母イネヴェラの牡馬が220ギニー(当時のレートで約4億8129万円)で、父ウートンバセット・母タイムトンネルの牡馬が190万ギニー(約4億1666万円)で、父ドゥバウィ・母レディバウソープの牡馬が130万ギニー(約2億8508万円)で購買されるなど、クマーニ氏は生産者としても大成功を収めている。
 そのクマーニ氏は、より質の高い種牡馬を探求する目的で、ここ2年ほど、アシュフォードスタッドで供用されているジャスティファイに交配すべく、所有する牝馬をケンタッキーに送り込んでいる。その彼は今、自分か持つ繁殖牝馬を日本に送り込むことを真剣に考えている。年明けに公開された、TDNのインターナショナルエディターを務めるエマ・ベリーがホストを務めるポッドキャストで、彼はこう語っている。
 「日本にいる種牡馬の水準は非常に高い。調教師として数多くの管理馬を日本へ送り出した私だが、生産者として牝馬を日本に送るべき時が来たと考えている」。
 1981年の第1回ジャパンCで、日本のエースたちが完膚なきまでに叩きのめされた光景を目の当たりにした者としては、日本の競馬や日本の馬産が、競馬発祥の地を基盤とするホースマンたちに、ここまでリスペクトされる日が来たことを、奇跡を目の当たりにする思いで見つめている。
 日本調教馬にとって、世界の主要競走のことごとくが、現実的な目標として視野に入る時代を迎えている。そんな中、日本馬がまだ手が届いていないのが、競馬発祥の地・英国における、12F路線のG1だ。2026年はそこを目指し、タイトルを手にする日本馬が現れることを期待したい。

カランダガンは欧州年度代表馬にしてジャパンカップに勝った

世界最高のレーティングを獲得した2023年ジャパンカップ(優勝馬イクイノックス)

「2025年フレッシュマンサイヤー検証」

 初年度産駒が2025年にデビューするフレッシュマンサイヤーの検証をお届けしたい。それはすなわち、一連の2歳トレーニングセールに産駒が初めて登場する種牡馬の考察を意味する。北米では3月11日からのOBS3月セール、欧州では4月16日からのタタソールズ・クレイヴンセールを皮切りに、今年の2歳セール・サーキットが開幕するが、ご購買をご検討の皆様の参考になれば幸いである。
 米国供用馬で、初年度(22年)の種付け料が最も高かったのは、ダーレーにて7万50000ドル(約1178万円)で供用されたエッセンシャルクオリティ(父タピット)だった。2歳時にG1ブリーダーズCジュヴェナイル(ダート8・5F)を含む2つのG1を制して最優秀2歳牡馬となり、3歳時にもG1トラヴァーズS(ダート10F)など2つのG1を制して最優秀3歳牡馬になるという、輝かしい戦績をあげた同馬。24年に北半球で開催された1歳市場では、68頭の初年度産駒が種付け料の約2・4倍となる平均価格18万0591ドル(約2835万円)で購買され、マーケットの評価も上々だった。ちなみに、同年のJRHAセレクトセールに上場された父エッセンシャルクオリティ・母レッドラークの1歳牡馬は、9200万円で購買されている。
マーケットにおける評価がさらに高いのが、ヒルンデイル・ファームスにて種付け料5万ドル(約785万円)でスタッドインしたシャーラタン(父スパイツタウン)だ。22年のファシグテイプトン・ノヴェンバーに上場されたシャーラタン受胎牝馬7頭のうち、5頭が平均価格52万7千ドル(約8274万)で購買されて関係者の注目を集めると、24年の北半球における1歳市場では、3頭のシャーラタン初年度産駒がミリオンを越える価格で購買され、平均価格は種付け料の5倍近い24万8627ドル(3903万円)に達するという、好調な売れ行きを示した。現役時代の同馬は、球節に不安を抱えていたため5戦したのみだったが、6馬身差で制したG1アーカンソーダービー(ダート9F)、7か月半の休み明けだったにも関わらず4馬身半差で制したG1マリブS(ダート7F)など4勝をマーク。その圧倒的なスピード能力は、種牡馬としての大きな魅力となっている。また、北米供用馬では、24年の1歳市場における初年度産駒の平均価格が、初年度種付け料(4万ドル=約628万円の5倍近い19万7589ドル(約3102万円)に達した売却率も83.2%という上々の数字をマークしたマックスフィールド(父ストリートセンス)も、注目の若手種牡馬と言えよう。
 22年に欧州でスタッドインした新種牡馬で、マーケットで長打を連発しているのが、クールモアスタッドにて6万5000ユーロ(約1047万円)で種牡馬入りしたセントマークスバシリカ(父シユーニ)だ。22年のタタソールズ・ディセンバーで、セントマークスバシリカを受胎しての上場だった重賞入着馬ラヴイズユーが140万ギニー(2億8280万円)で、同じくセントマークスバシリカを受胎しての上場だった重賞勝ち馬の母アーチエンジェルガブリエルが80万ギニー(約1億6160万円)で購買され、関係者の注目を集めた後、初年度産駒が1歳となった24年、アルカナ・オーガストに上場された母プルデンジアの牝馬が170万ユーロ(約2億7370万円)、タタソールズ・オクトーバーに上場された母ロンジナの牡馬が95万ギニー(約1億9190万円)で購買されるなど、高評価を受ける初年度産駒が複数出現。購買された58頭の平均価格も19万8552ギニー(約4011万円)という、高い水準に達している。2歳から3歳にかけて7Fから10.5FのG1を5勝し、3歳時には無敗で欧州年度代表馬の就いた同馬。産駒のデビューが楽しみな種牡馬であることは、間違いない。
 欧州供用の新種牡馬で、穴馬的な存在をあげるとすれば、ヴィクタールドラム(父シャマーダル)になろうか。2歳時にG1ジャンルクラガルデル賞(芝1600m)、3歳時にG1仏二千ギニー(芝1600m)を制した後、ロジ牧場で種牡馬入りした同馬。初年度の種付け料は1万5000ユーロ(約242万円)と、さほど高額ではなかったが、24年のアルカナ・オーガストに上場された母リリエンブルームの牡馬が42万ユーロ(約6762万円)で、同年のアルカナ・オクトーバーに上場された母アラカナの牡馬が同じく42万ユーロという高値で購買され、ロングヒッターぶりを見せつけた。1歳市場における初年度産駒の売却率も83.75%と高く、注目度が急上昇している若手種牡馬と言えよう。欧州では、ダルハムホールスタッドにて5万5000ポンド(約1051万円)で供用されたパレスピーア(父キングマン)も注目の1頭だ。現役時代の成績は11戦9勝。3歳、4歳時に連覇したG1ジャックルマロワ賞(芝1600m)を含めて5つのG1を制した同馬。24年の1歳市場では、目を引くような高額で購買される馬は現れなかったが、交配された牝馬のうち上質なものの多くはマクトゥーム家による所有馬だったため、そうした牝馬の産駒は市場には出てこなかったというのが実情だ。キングマンの直仔は日本でも動いており、その後継馬としてのパレスピーアは、日本人も充分にマークする必要がありそうだ。
(*編集部注/1㌦=157円、1ユーロ=161円、1ギニー=202円、1ポンド=191円で計算)