馬主生活を楽しむための科学やデータ
2026年03月07日
少し前の話になるが、新冠で行われた後援会を傍聴してきた。講師はオーストラリアにおける馬遺伝学の第一人者、ナターシャ・ハミルトン博士。なんらかの知見を得られればと思い行ってきた次第だ。
現地にかなり早く着いてしまったところ、関係者の方々が講演前にハミルトン博士と話す機会を作ってくださった。そこで文系の筆者が考える血統というもののイメージと、学問としての遺伝学の間にどの程度の距離感があるかを確認させていただいたのだが……結論を先に言うと、距離感はかなりある(笑)。学者の方々は科学的に正しいと断定できることでないと完全には肯定できないし、一方で遺伝子の働きがすべて解明されているわけではない。さらに我々は、簡単に各馬の遺伝子・遺伝情報を把握できるわけでもない。
ただそんな中からも、実用化された技術はある。皆さんにおなじみで実用化されているところでは、競走馬の距離適性や完成時期の早さに関係すると言われるミオスタチン(スピード遺伝子)が良い例だ。また今回の講演会では、胚死滅や精子の先体反応障害に関係している可能性がある遺伝子についての紹介があった。これらは完全に解明されて実用技術に繋がると、受胎率・出生率の向上などが期待できる。
私は個人的に馬に関することならなんにでも興味があるというか、文系人間でありながら「科学」とか、そこまでいかなくても「データ」といったものに対するアレルギーは無い。ただ競馬界を見渡すと、理系的だったり、理屈っぽいアプローチだったりするものはあまり好まれないような気がする。と、言うよりもそういうものとは異なるベクトルの方が人気があるというか。
札幌馬主協会の場合、馬主であり生産者という方も多いので場合分けしていかなければならないが、馬を扱う職業をしている方は自分の経験に対する自信があるだろうし、馬との距離感が近いぶん主観的な判断のほうがしっくりくるという面はあるだろう。
しかし、札幌においても所有専門の馬主さん(という言い方も変だが)は多いわけだし、馬は趣味、本業は別業種という方のほうが一般的なはずだ。馬という動物について詳しくない、という方もおられるだろう。
そういった皆さんにとって、馬に関する論文や発表、資料、誰でも利用できる形で提供されているデータといったものは、競馬をより深く楽しむためのツールになりうるのではないかと思う。
正直、論文や学術会議での発表となると難解だったりテーマが専門的すぎたりする面もあるが、そこから派生した出版物やネットにアーカイブされた文書・資料等には平で馬主と馬の距離を縮めてくれるものがある。
紙でいうと、この原稿を書きながら手元にあるものを探したら「飼養衛生管理基準ガイドブック馬編」(中央畜産会)、「競走馬・海外遠征の手引き」(競走馬診療所)、「セリにおける馬のコンフォメーションおよびレポジトリーの見方」(JRA日高育成牧場・宮崎育成牧場・馬事部生産育成対策室)といったものが見つかった。これら以外の冊子を含めおそらく馬主の皆さんに配布されたものもあるのではと思うが、実際にどの程度読まれているのだろうか。新規馬主の方などは、独自の相馬眼だけにこだわるのではなく、「セリにおける~」のような基本を押さえるとよいのではないかと思う。
ウェブ上にも人知れずいろいろなものが収録されている。競走馬総合研究所のHPには、かつて雑誌「優駿」や中央競馬サークルだより「ぱどっく」に連載された興味深い記事がアーカイブされている。JRAHPの中にある日高・宮崎育成牧場、生産育成研究室のコーナーではブログで馬に関する知見や生産・育成馬の様子などが発信されている。知識が深まれば「馬を持つこと」が楽しくなるだろうし、生産牧場、育成牧場、調教師などの説明をより深く理解できるといった効果があるかもしれない。
より主体的に取り組む意欲があるなら、購買や自己所有馬の分析にデータを活用することをおすすめしたい。馬主の皆さんは民間サイトのネットケイバを利用していることが多いようだが、日本軽種馬協会の運営するJBISサーチには種牡馬や生産者などのデータが豊富に収録されており、こちらもおすすめだ。有料サービスだがJRA-VANのデータラボと有名ソフトのTARGET Frontier JVを使うと、かなり詳細な検索ができる。私自身セリのお手伝いをするときにはネットケイバ・JBISサーチ・TARGETを駆使している。冷静で客観的な購買を志向する方々にはおすすめの方法だ。
最初は科学の話から入って最後は「科学風味」くらいのところに着地してしまったが、馬主人生を楽しむための手段として、こういった方向性も意識していただければと思う。















